分子スケールの電子伝導とテラヘルツダイナミクス

2016.9.21

東京大学生産技術研究所 平川一彦

 我々は、電子を0次元的に完全に閉じ込めることができる単一分子を活性層とする極限ナノトランジスタについて、テラヘルツ(THz)電磁波を用いて量子伝導の解明と制御、応用に関する研究を行っています。一般に、THz電磁波の波長は100 µm程度あり、1 nm以下の単一分子とは相互作用が極めて小さいと言う問題があります。我々は、単一分子トランジスタ構造のソース・ドレイン電極をTHzアンテナとして用いることにより、回折限界を10万倍も越えて、THz電磁波と単一C60フラーレン分子を強く相互作用させることに成功しました。

図1に単一C60分子を活性層とするトランジスタのクーロン安定化ダイアグラムを示します。この試料に波長119 µmのレーザ光を照射したところ、通常の量子準位を経由したトンネル伝導に加えて、その上下に光子エネルギー10 meVの整数倍だけ離れたところに新しい伝導チャネルが形成されることを見いだしました[1]。これは、分子内の量子準位が強いTHz電界に揺さぶられて、フォトンサイドバンドが形成されていることを意味しています。このことは、ナノギャップ電極を用いることにより電磁波の電界を10万倍も増強できること、さらに強いTHz電界で電子の伝導を制御できることを示しています。

[1] K. Yoshida, K. Shibata, and K. Hirakawa, Phys. Rev. Lett. 115, 138302 (2015).

 

図のキャプション

Fig. 1 単一分子とテラヘルツ電磁波の相互作用

(a)単一分子トランジスタ構造。(b)テラヘルツ電磁波を照射しないとき(左)と照射したとき(右)の単一C60分子トランジスタのクーロン安定化ダイアグラム。