世界初!誤り耐性のある量子ビットを開発

~幾何学的エコーで自律安定する量子メモリー/量子センサーへ~

2016.5.19
横浜国立大学 小坂 英男

横浜国立大学大学院工学研究院の小坂英男教授と関口雄平君(博士課程前期)は、量子通信、量子計算、量子計測に用いられる誤り耐性のある量子ビットの新たな構成法とこれを自律的に安定化する新原理を実証することに、世界で初めて成功しました。
今回の成功は、量子情報処理の基本要素である量子ビットとして有望な、ダイヤモンド中の単一欠陥の電子スピンを用い、誤り耐性のある量子ビット構成を考案し、従来の動的エコーとは全く異なる幾何学的スピンエコーと呼ぶ新原理の安定化技術で自律的に安定化できることを示した画期的な発見です。
今回得られた結果は、磁場を完全に排除した無磁場環境下で、量子ビットを破壊する原因となる環境ノイズや制御エラーを自律的に排除できることを示すもので、誤り訂正の不要な量子メモリーや究極の感度を持つ量子センサーに道を開くものと期待されます。

量子情報科学は、これまでの情報を担ってきた古典力学的な情報単位(古典ビット)を量子力学的な情報単位(量子ビット)に拡張する新時代の情報科学です。情報の入出力にまで量子効果を許すことで、今までにない計算能力を持った量子計算機や、原理的に安全な量子通信を実現できるといわれています。また、超高感度なセンサーなどを実現する量子計測にも応用できるとして期待されます。これらを実現するためには、量子ビットを正確に操作し、安定に保持する必要がありますが、これまでに提案されている量子ビットは操作誤りが累積し、またこれを安定に保持することは困難でした。
今回、ダイヤモンド中の窒素空孔中心(NV中心)の電子スピン対に着目し、誤り耐性のある量子ビットの構成法とこれを自律的に安定化する新原理を実証することに、世界で初めて成功しました。NV中心はダイヤモンド中の窒素不純物と炭素欠損が隣接して対となったもので、真空中の孤立原子と同様に安定な量子媒体となり、この空孔に局在した電子スピン対は量子ビットとしての応用が期待されています。従来の量子ビットはこれを構成する二つの量子状態を利用しますが、今回の量子ビットは補助となる第三の量子状態を加えて利用することで、誤り耐性のある量子ビットを構成します。従来の動的スピンエコーとは全く異なる幾何学的スピンエコーと呼ぶ新原理の安定化技術により、磁場を完全に排除した無磁場下でこの量子ビットが自律的に安定化できることを示しました。量子状態が持続する時間(コヒーレンス時間)は、通常の0.6マイクロ秒から約140倍の83マイクロ秒に延びることを示しました。本結果は、磁場を完全に排除した無磁場環境下で、量子ビットを破壊する原因となる環境ノイズや制御エラーを自律的に排除できることを示すものです。

掲載論文:
Y. Sekiguchi, Y. Komura, S. Mishima, T. Tanaka, N. Niikura and H. Kosaka
“Geometric spin echo under zero field”
Nature Communications 7, 11668 (2016), (doi:10.1038/ncomms11668).

ニュースリリース:
http://www.ynu.ac.jp/hus/koho/15972/detail.html