ダイヤモンドNV中心の生成制御と超高感度量子センシング

2016.5.1
慶應義塾大学 早瀬 潤子

ダイヤモンドNV中心に局在した電子スピン状態は、室温・大気下において長いコヒーレンス時間を有すること、光やマイクロ波を用いた初期化・操作・読み出しが容易であることから、量子情報素子や量子センサへの応用が期待されています。慶應義塾大学・早瀬グループでは、NV中心電子スピンの量子コヒーレンスを利用した超高感度量子センサの実現を目指し、ダイヤモンドサンプルの作製から量子センシングの実験・理論まで共同研究者と協力して一貫して研究を進めています。

超高感度量子センサを実現するためには、NV中心の位置や配向を制御し、かつ電子スピンコヒーレンス時間を長寿命化させることが重要です。早瀬グループでは、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、物質・材料研究機構、慶應大伊藤グループと共同で、窒素ドープ化学気相成長をベースとした新しいダイヤモンドサンプル作製に取り組んできました。これまでに、同位体制御によるコヒーレンス時間の長寿命化や、表面バンドエンジニアリングによる極浅NV中心の生成に成功しております[1]。また、微細加工テンプレート基板を導入することで、従来技術では難しかったNV中心生成位置・配向の同時制御[2]にも成功しました(図参照)。これにより、今までなかったようなユニークなダイヤモンドサンプルが作製可能となり、量子センサの感度や空間分解能の最適化が可能になると期待されます。

また量子センサ感度を向上するためには、電子スピン量子制御技術を高度化することが必要です。我々のグループでは、光検出磁気共鳴顕微鏡を自作し、スピンエコー法やダイナミカルデカップリング法を用いることで、交流磁場の高感度センシングや広視野イメージングに成功してきました。現在は、名古屋大・大野グループと共同で、カーボンナノチューブ中に流れる微小電流のセンシングに挑戦しています。またNTT基礎研・松崎グループと共同で、NV中心電子スピン状態の理論解析を進め、感度を向上させるための新しい電子スピン量子制御法の考案や、NV中心電子スピンと他の核スピンとの相互作用に関する考察も行なっております。これらの研究は、NV中心電子スピンと他の量子系との相互作用を解明する上でも重要であり、新しいハイブリッド系実現の可能性を拓くものと期待されます。

 

[1] K. Ohashi, T. Rosskopf, H. Watanabe, M. Loretz, Y. Tao, R. Hauert, S. Tomizawa, T. Ishikawa, J. Ishi-Hayase, S. Shikata, C. L. Degen, and K. M. Itoh, “Negatively Charged Nitrogen-Vacancy Centers in a 5 nm Thin 12C Diamond Films”, Nano Lett. 13, 4733 (2013).

[2] H. Watanabe, H. Umezawa, T. Ishikawa, K. Kaneko, S. Shikata, J. Ishi-Hayase, K. M. Itoh, “Formation of Nitrogen-Vacancy Centers in Homoepitaxial Diamond Thin Films Grown via Microwave Plasma-Assisted Chemical Vapor Deposition”, IEEE Transactions on Nanotechnology (in press).