カーボンナノチューブ量子ドットの理論研究

2016.6.1
慶応義塾大学 江藤 幹雄

我々のグループは、量子ドット、半導体ナノワイヤ、カーボンナノチューブ(CNT)等のハイブリッド構造の理論研究による新奇物理現象の解明、および新機能素子の提案を目指しています。例えば、超伝導体(S)・常伝導体(N)接合系に関しては、スピン軌道相互作用が強いInSbナノワイヤのS/N/S系における異常ジョセフソン効果[1]、N/S系でのポテンシャル変調効果[2]、等を調べています。

現在興味があるのは、CNTの量子ドットとしての性質です。CNTに2つの電極を接続すると、輸送特性の測定によって離散エネルギー準位や多電子状態を詳細に調べることが可能です。CNT量子ドットの特徴として、まず (i) 2つの谷K, K'の自由度があります。理想的には谷縮退のために2つのエネルギー準位が縮退しますが、実際には不純物散乱や閉じ込めの影響で小さなエネルギー差ΔK,K'が生じます。それぞれの波動関数は(量子ドットのサイズ程度で緩やかに変化する包絡関数)×(格子定数程度で激しく振動するBloch関数)で与えられ、包絡関数は両者で共通ですが、Bloch関数は谷によって異なる波数を持ちます。次に、(ii) 谷間にはたらくクーロン相互作用を見積もると、交換相互作用JがBloch関数の振動のために非常に小さくなることがわかります[3](J~0.1 meV)。この結果、「多谷人工原子」の電子状態は、GaAsの人工原子のそれと大きく異なります。さらに、(iii) CNTでは曲率に応じてスピン軌道相互作用 ΔSOがはたらきます。ΔSOはΔK,K'Jと同程度になり得るため、多様な電子状態が基底状態や励起状態に現れます。最近の実験で、クーロンブロッケード領域における高次のトンネル過程(cotunneling)による電流が測定されました。微分伝導度のバイアス電圧依存性が示す「励起スペクトル」は、我々の理論で半定量的に説明できそうです。

我々は以前、半導体へテロ構造中の電子と光学フォノンの結合について調べ、二重量子ドットの電気伝導によるフォノンレーザーを提案しました[4](図1)。CNT量子ドットでは、電子数の変化に伴って格子の歪むフランク・コンドン効果が生じます。二重量子ドットでのドット間のエネルギー準位差や単一ドットでのバイアス電圧の制御によって、生成されるフォノン数が一つずつ変化する「フランク・コンドン ブロッケード」も報告されています。今後はCNTにおけるフォノン制御、電子・フォノン間のエンタングルメント生成等を目指します。

 

[1] T. Yokoyama, M. Eto, and Yu. V. Nazarov, Phys. Rev. B, 89, 195407 (2014).

[2] S. Wakabayashi and M. Eto, in preparation.

[3] Si量子ドットでも同様: Y. Hada and M. Eto, Phys. Rev. B, 68, 155322 (2003).

[4] R. Okuyama, M. Eto, and T. Brandes, J. Phys. Soc. Jpn. 82, 013704 (2013).