量子ドットを用いたスピンと光子の相互変換を目指して

2016.4.1

理化学研究所 石橋 幸治

本研究グループでは電子の持つ電荷とスピンに着目し、これらと他の量子の変換にかかわる物理を明らかにし、様々なナノ材料においてその量子変換技術の開発を行っています。スピンや電荷を1量子単位で変換するために電子を閉じ込める量子ドットを利用します。そのための材料として自然にナノスケールの構造が形成されるナノカーボンや半導体ナノワイヤを使います。図1は多層カーボンナノチューブ(MWNT)を利用して作製した量子ドットの電子顕微鏡写真です。カーボン材料は核スピンをもつ原子が少ないのでスピンに対する量子コヒーレンスが長いことが期待でき、スピン量子変換デバイス材料に適しています。しかし、量子ドットをデバイス化し、回路化するためには、任意の位置に制御性のよいトンネル障壁を形成することが必要です。そのために本研究では局所的にイオンビームを照射して生じるダメージをトンネル障壁に利用することを検討しています。これまでに3重トンネル障壁を作製して2重結合量子ドットの特性を得ることに成功しました。2重結合量子ドットはスピン・電荷変換機能を持つ最も基本的な構造なので、カーボンナノチューブをもちいてそれを形成できたことは今後につながります。しかし、まだまだトンネル障壁の信頼性は十分よいとは言えないので、より小さな領域にイオン照射が可能な集束イオンビームを用いる方法も試みています。

スピン軌道相互作用(SOI)は電圧でスピンを制御するために大変有効な効果です。本研究グループでは大きなSOIを得ることができる狭ギャップ半導体のInSbナノワイヤ(NW)やホールを伝導キャリアとするGe/SiコアシェルNWを用いて量子ドットを作製しています。ここではスピン・(マイクロ波)光子変換の実現を目指して、量子ドットをマイクロ波回路共振器に組み込むことを試みています(図2(a-c))。量子ドット構造はナノワイヤの下に作製した細いゲートに電圧をかけて形成します(同図(b))。この構造で、最終的にSOIを通して共振器中の電界(光子)と量子ドット中のスピンを相互作用させようという目論見です。スピンと光子の変換の実現を成功させるためには、まだまだ克服すべき課題が多いのですが、予備的な実験では2重結合量子ドットの1電子の電荷状態が共振器の共振特性に反映されることを見出しています。今後この効果をより大きくするとともに、そのメカニズムを明らかにすることが必要です。

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図2:マイクロ波コプレーナ導波路で形成した共振器中に組み込んだナノワイヤ量子ドットの全体写真。

(a)量子ドット部分の拡大図。信号線とグランドの間に量子ドットを形成する。共振器中で最も電界が大きくなる位置に設置する。(c)信号線内に共振器を形成するための切断部分。この部分がコンデンサとして働き、反対側に設けた同様の構造との間に電磁界が閉じ込められる(共振器構造)。