分子吸着によるカーボンナノチューブのフォノンの変調

2016.3.1

東京理科大学 本間 芳和

東京理科大学 本間グループでは,単層カーボンナノチューブ(SWNT)の外表面への分子吸着や内部空間への分子内包がSWNTのフォノンの振動数に与える影響を,単一SWNTのラマン散乱分光/蛍光発光分光同時計測により評価しています.1原子層の筒状物質であるSWNTには,固有のフォノンモードがあり,1原子層であるがゆえに,それらの振動数は分子吸着により影響を受けます.このため,SWNTのフォノン物性の理解やその応用には,分子吸着をはじめとするSWNT周囲環境の影響を精密に評価することが重要です.

これまでに,疎水性であるSWNT表面に大気中で2分子層の水吸着層が形成されることを,分光計測と分子動力学計算により明らかにしました [1].この水吸着層は,SWNTの直径が伸縮するradial breathing mode (RBM)と呼ばれるフォノンの振動数を6 cm-1程度アップシフトさせることを見出しました.解析の結果,これはSWNTの振動と吸着層の振動がvan der Waals相互作用を通じて結合する結果であることが分かりました [2].振動数シフトの大きさは,ラマン散乱測定が可能な直径2 nm程度までは直径に寄らず一定で,van der Waals相互作用の大きさが同じ程度であれば,物質にも依存しません.このため,SWNTが束になった場合も同様なシフトが生じます.

一方,水吸着層はG bandと呼ばれるSWNTの格子の面内振動には影響しません.これに対し,SWNTをセルロースファイバーの膜中に分散した場合にはG bandの振動がアップシフトします.これは,セルロースファイバー膜がSWNTを軸方向に縮ませるような応力を及ぼすためであることが,蛍光発光における励起光と発光の波長シフトの解析から明らかになりました [3].

このように,SWNTのフォノンは分子や物質の吸着によって変調することができます.今後は,これを積極的に利用して,SWNTの内部空間に内包させた分子の構造や状態(液相・固相)によりフォノン周波数を制御を検討するとともに,SWNT中のフォノンと励起子とのカップリングによる現象を追求し,フォノン・光ハイブリッドへの展開を図ります.

  1. Y. Homma, S. Chiashi, T. Yamamoto, K. Kono, D. Matsumoto, J. Shitaba, and S. Sato, Phys. Rev. Lett. 110, 157402 (2013)
  2. S. Chiashi, K. Kono, D. Matsumoto, J. Shitaba, N. Homma, A. Beniya, T. Yamamoto, and Y. Homma
  3. M. Ito, F. Yajima, and Y. Homma, to be published.