標準量子限界を超える感度を持つ磁場センサの構築

2016.2.1

NTT物性科学基礎研究所 松崎 雄一郎

近年、電子スピン状態の重ね合わせや量子絡み合いによって、磁場センサの感度を向上させる研究が盛んに行われている。重ね合わせを用いると磁場の推定誤差をδB = Θ(L-0.5) に抑えることが可能であり(L は電子スピンの数を表す)、これを標準量子限界と呼ぶ[1]。また原理的には、量子絡み合いをノイズのない環境で用いることで、推定誤差をδB = Θ(L-1) に抑えることができる[1]。しかし、実用的な量子センサを実現するためには、大規模な量子絡み合いを生成する手法を確立し、ノイズが存在する環境下でも標準量子限界を超えられるスキームを構築する必要がある。

そこで我々は特に、スピンスクイーズド状態[2] と呼ばれる、電子スピンの磁化揺らぎを抑制することで生成される量子絡み合いに着目した。この状態は、電子スピンの個別操作を行うことなくグローバルな操作のみで生成できるため、大規模生成に適していると考えられている。しかしながら、電子スピンは位相ノイズの影響を受けているため、コヒーレンスを長時間維持することはできない。そのため我々は、スピンスクイーズド状態を用いた磁場センサの性能を、現実的な位相緩和が存在する影響下で評価した。その結果、スピンスクイーズド状態を磁場と相互作用させる時間を最適化することで、磁場の推定誤差がδB = Θ(L-2/3) に抑えられることを理論的に示した[3]。これは、実験的な生成が比較的容易なスピンスクイーズド状態でも標準量子限界を超えられることを意味しており、高感度量子センサの実用化に向けた研究に弾みをつけるものである。

 

図1: 磁場センサの感度(磁場の推定誤差)のプロット。量子ビット数を増やすことで、古典センサを大幅に上回る感度を持つ量子センサが実現できる。

参考文献
[1] S. F. Huelga, et al., Phys. Rev. Lett. 79, 3865 (1997).
[2] M. Kitagawa and M. Ueda, Phys. Rev. A 47, 5138 (1993).
[3] T. Tanaka, P. Knott, Y. Matsuzaki, et al., Phys. Rev. Lett. 115, 170801 (2015). ( These authors contributed equally to this work.)