半導体ヘテロ構造における励起子吸収を用いたオンチップ光機械結合

2015.11.1

NTT物性科学基礎研究所 山口 浩司

NTT物性科学基礎研究所の研究チームは東北大学と共同で、高感度センサや高精度発振器に広く用いられているメカニカル振動子の熱振動を、レーザ光を照射するだけで低減できる新しい原理のレーザ冷却手法を実現しました。精密な光共振器を必要としない簡便で拡張性の高い熱ノイズ低減の手法として期待されます。

鉄琴の板や鐘など、決まった周波数で振動が続く人工構造はメカニカル振動子と呼ばれます。昨今ではナノテクノロジーの進展により微細化や集積化が進み、MEMS (Micro-electromechanical Systems) 振動子として形を変え、センサや発振素子などの微小素子として広く用いられています。このメカニカル振動子の極限的な性能に限界を与えるものとして、熱振動の影響が知られています。特に、メカニカル振動子におけるフォノンの量子性を調べる研究においては、熱振動は微細でランダムな揺れを振動子に引き起こし、量子力学的な振る舞いを隠してしまいます。

これまで、この熱ノイズを低減させる有効な手法のひとつとして、レーザ冷却の手法が提案されていました。しかし従来の手法では光共振器と呼ばれる極めて精密に調整された光学部品と組み合わせる必要がありました。今回、光学特性と圧電特性に優れた半導体変調ドープ構造とのハイブリッド素子を用いることにより、光共振器を用いないレーザ冷却の実現に成功しました。

動作の実現に成功したメカニカル振動子は、長さ20μm、幅14μm、厚さ0.4μmのカンチレバーです [図(a)]。このメカニカル振動子は極めて軽量であるため、熱エネルギーによるランダムな振動が発生します。今回、光学特性と圧電特性に優れたGaAsとAlGaAsのヘテロ構造を用いて振動子を作製することにより、レーザ光を振動子に照射するだけで熱振動を抑えることに成功しました[図(b)]。具体的には、照射によって生成される電子と正孔が引き起こす圧電応力を用い、動的なフィードバックにより熱振動を減衰させます。実験では、この手法により熱振動のエネルギーを半分に低減することに成功しました。照射するレーザ光の波長を調整することにより振動増幅あるいは自励振動を引き起こすことも可能であり、レーザ照射という簡便な手法により、メカニカル振動子の共振特性を自在に制御できることが示されました。

 

  1. Okamoto, T. Watanabe, R. Ohta, K. Onomitsu, H. Gotoh, T. Sogawa, and H. Yamaguchi, “Cavity-less on-chip optomechanics using excitonic transitions in semiconductor heterostructures”, Nature Communications 6, 8478.

DOI:10.1038/ncomms9478.

 

図 (a) 作製したメカニカル振動子の顕微鏡写真(上面図)。(b) 実験方法を模式的に示した図。振動子は200 nm厚のAlGaAsと200 nm 厚のGaAsの2層薄膜により作製されている。熱揺らぎによりこの構造はランダムな振動を行うが、振動子にレーザを照射することにより、この熱振動を抑えることに成功した。